ふたつ名の令嬢と龍の託宣
「まあ、いい。リーゼロッテ嬢は何かしたいことはないかい? 今はまだ、城からは出してあげられないけど、外商を呼んで何か買ってもいいし、城下ではやりのお菓子など取り寄せてもいい」

 もちろんヴァルトの支払いでね、とハインリヒは続けた。リーゼロッテは可愛らしく小首をかしげてしばらく考え込んだ。

「……でしたら、わたくし、アンネマリーと会いたいですわ。アンネマリーもまだこちらにいると伺っております。お許しいただけるのなら、少し話がしたいです」

 その言葉に、なぜかハインリヒが急に咳込んだ。その後ろで、カイがニマニマと笑っている。

「王子殿下?」
「いや、失礼、何でもない。クラッセン侯爵令嬢だね。うん、わかったよ。義母上に一度お伺いを立ててみる」

 アンネマリーは今、王妃の離宮に滞在している。王妃の離宮は、国王以外の男性は、王子であっても許可なく立ち入ることはできないのだ。

「それで、最近はどうだい? 力は扱えるようになってきた?」

 そう話を振られて、リーゼロッテはかぶりをふった。あれから原因を探るものの、リーゼロッテの内に力は存在していても、その発動には至っていない。成果があったとすれば、ジークヴァルトがいなくても、守り石があれば異形の者が見えるようになってきたことぐらいだ。

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