ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 リーゼロッテは、手で触れるだけで守り石が青くなっていくのを目の当たりにして、ジークヴァルトに怒りを禁じえなかった。あれができるのなら、密着して石に口づける必要などないのだから。

 いつも羞恥に耐えていたリーゼロッテは、もうだまされないとばかりに、外したペンダントをジークヴァルトに差し出した。

「これからはわたくしが外してからお渡ししますので、それから力をお籠めくださいませ」

 ジークヴァルトは無表情でそれを受け取ると、二人掛けのソファに腰を下ろした。リーゼロッテは立ったまま何も言わずそれを見守った。

 ジークヴァルトは石の真上の鎖の部分を握り、石を持ち上げて口元に持って行った。瞳を閉じてすっと息を吸う。

(口づけるのは結局やるのね)

 力の籠め方が違うのかもしれない。だとすると、先ほどのたくさんの石は、あまりにもぞんざいに扱われてやしないだろうか。

 少しくすんでいた石の青が、すうっと澄んだ青に変化していく。中の青が揺らめく瞬間を、リーゼロッテは食い入るように見つめていた。

(やっぱり綺麗……)

 ふいにまぶたを開けたジークヴァルトと視線がばちりと合う。無言でペンダントを差し出されて、リーゼロッテはおずおずと手を伸ばした。

 やってもらっているのに、横柄な態度を取りすぎたかもしれない。そう思うと、リーゼロッテはそれ以上強気にでることはできなかった。

 お礼を言おうと口を開きかけた瞬間、ぐいと、ジークヴァルトに腕をつかまれ引き寄せられた。

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