ふたつ名の令嬢と龍の託宣
「わたくし、隣国にいたときテレーズ様と懇意にさせていただいていたのだけれど……」
「テレーズ王女殿下ね。ブラオエルシュタインから隣国に輿入れされたのだったわね」
「ええ。それで、隣国の王室はそれこそ魑魅魍魎がいるような場所だったの。特に王族の男性は横柄で、女性を物としかみないような方ばかりだったのよ。国に戻って、王子殿下のお噂を聞いたとき、この国の王家の方々も同じなのだと勝手に思い込んでしまったの」

 アンネマリーは申し訳なさそうに続けた。

「テレーズ様はおやさしくて聡明な方だわ。ハインリヒ様はそんなテレーズ様の弟君であらせられるのに、勝手な妄想で貶めてしまうなんて……ひどい話よね」

 実のところアンネマリーは、隣国の王族に手籠めにされそうになったことがあった。幸いすぐに助けが入ったのだが、あの時のことを思い出すと今でも身震いしてしまう。

 テレーズの計らいもあって、逃げるように帰国した経緯もあった。その時の恐怖から、王族に対する不信感がどうしてもぬぐえなかった。王族には絶対に近づきたくない。そう強固に思わせるほどに。

 何かを察したリーゼロッテが、今度はアンネマリーをぎゅっと抱きしめた。

「ごめんなさい……何か辛いことを思い出させてしまったかしら」
「大丈夫よ。リーゼは心配性ね」
「まあ、その言葉、そのままそっくり返すわ、アンネマリー」

 ふたりは抱き合ったまま、くすくす笑いあった。

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