ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 リーゼロッテの件が片付かないことには、ジークヴァルトを自分の護衛に戻せない。龍の託宣のことを知る者は限られているので、現状でカイ以外に自分の護衛をまかせられる適任者はいなかった。

 カイはイジドーラ王妃の甥ということもあるが、ハインリヒはカイに対してたしなめることはあっても、あまり強く言うことはできないでいた。

 猫の殿下のお腹をもふもふしながら、はあ、とハインリヒは再びため息をついた。癒しの源である殿下と戯れていても、王子の心は思うように晴れそうにない。

「ハインリヒ様?」

 その声に、ハインリヒはぱっと顔を上げた。

「アンネマリー」

 ハインリヒの顔は、打って変わって明るいものになる。自分が満面の笑みをたたえているという自覚はあったが、それをとめることはできなかった。

 ハインリヒが殿下と戯れていると、アンネマリーはときどきこうやって姿を現した。

 姉姫のテレーズのことや隣国の話をおもしろおかしく話す彼女は、とても機知に富んでいて、話しているとつい時間を忘れてしまう。ハインリヒはアンネマリーと過ごすこの時間を、最近では心待ちにしている自分に気づいていた。

< 206 / 678 >

この作品をシェア

pagetop