ふたつ名の令嬢と龍の託宣
「リーゼロッテ嬢にはもう会ったのかい?」
「はい、先ほど。久しぶりに顔が見られて安心しましたわ。でも……」
「ああ。彼女の問題はなかなか解決のめどがたたないんだ。心配をかけてすまない」

 ハインリヒにそう言われ、アンネマリーは慌てて首を振った。

「そんな、恐れ多いですわ。リーゼロッテも大丈夫と言っておりました。わたくしはリーゼもハインリヒ様も信じております」

 そのままふたりはしばらく見つめあっていた。

 話をしていても、ふと沈黙が訪れても、この空間は心が安らぎ、とても心地よく感じられた。

 ――この時間がずっとずっと続いたら……

 ハインリヒはそう願わずにはいられなかった。

 だが、もう、限界なのかもしれない。あの日の過ちを、二度と繰り返してはならないのだから。

(あと、もう少しだけ――)

 ハインリヒは、自分の弱い心に失望しつつ、この束の間のやすらぎを終わらせることはできないでいた。

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