ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 しばらくして王妃に言われ、リーゼロッテは静かに顔を上げた。王妃の顔をまじまじと見ることは不敬に当たるので、視線は斜め下を向いたままである。しかし、ちらりと見えた王妃の表情は、何か珍獣を見るかのようなぶしつけなものであった。

「なぜ、託宣の令嬢がここにいるの? しかもメアと言えば、フーゲンベルクの……」

 王妃の斜め後ろに控えていた女官に、王妃様はひそひそと話しかけた。フーゲンベルクはリーゼロッテの婚約者の家名だ。

 扇で口元をおおっていたので、はっきりとは聞き取れなかったが、フーゲンベルクの名が出たということは、リーゼロッテには婚約者がいることを、王妃様にわかっていただけたのだろう。リーゼロッテはそう思ったのだが。

 しばらくじっとリーゼロッテを見つめて考え込んでいた王妃だったが、「そう……そうね、そういうこともあるわよね」と、ひとりで納得したようにそうつぶやくと、今度は満面の笑みで、リーゼロッテに声をかけた。

「今日はぞんぶんに楽しんでいってちょうだい。すぐに愚息がやってくるから、そちらも、どうかよろしくね?」

 いくつになっても美しいと評判の王妃は、にやり、という表現がいちばんぴったりくるような、そんな笑みを口元に浮かべた。

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