ふたつ名の令嬢と龍の託宣
「ずいぶんと長く、王妃様にお声をかけていただいていたわね?」

 慎重な足取りで円卓に移動したリーゼロッテは、アンネマリーにそう話しかけられた。

「ええ、まあ。恐れ多いことですわ」

 同じ円卓に座りながら、リーゼロッテは曖昧に微笑んだ。王妃に自ら、息子とよろしくやってくれと言われたなどと、話せるはずもない。

 もとより、リーゼロッテは王子の婚活などに興味はないのだ。幸いなことに、アンネマリーもそれ以上のことはつっこんで聞いてこなかった。

「わたくし、本当は今日、親戚の赤ちゃんの泉浸式(せんしんしき)に同席する予定だったのよ」

 アンネマリーは残念そうに言った。

 泉浸式とは、生まれたばかりの赤ん坊に、国の守護神たる青龍の祝福を授ける儀式である。ブラオエルシュタインでは、貴族の子供は生まれてすぐに、この儀式を受けることが義務づけられていた。

「赤ちゃんに会えるのを楽しみにしていたのに……。でも今日ここに来たからリーゼに会えたのですものね」

 アンネマリーはこのお茶会が急だったことに不満を抱いているようだった。リーゼロッテも同感ではあったが、大きな声で王妃に対して不平を言うものではない。リーゼロッテは曖昧な笑顔を返しておいた。

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