ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 ふと、廊下の遠くから人が近づく気配がする。ジークヴァルトは改めてリーゼロッテの格好を見やり、小さく舌打ちをした。

「とにかく部屋へ戻れ」

 リーゼロッテを抱き込んだまま、一緒に室内に入る。扉を閉めて、ジークヴァルトはリーゼロッテを見下ろした。ほのかな明かりの中、薄い夜着を着ただけの無防備な姿が見える。体を少し離すと、小声でジークヴァルトは問うた。

「侍女はどうした?」
「エラは先に休ませました。その、わたくし、あまり眠れなくて」

 本当は夢のせいで眠りたくなかったのだが、リーゼロッテは正直にそのことが言えなかった。

「そうか」とだけ言って、ジークヴァルトはリーゼロッテの頭に手を置いた。ぽんぽんと子供をあやすように頭をなでる。

 そこに先ほどのような怒気はなかった。完全に子ども扱いされていることに、不満よりも安心感が勝って、リーゼロッテは小さく笑った。

「無理に笑うな」

 そう言ったジークヴァルトに手を引かれて、ふたりで並んでソファに腰かけた。薄暗い室内でしばらく沈黙が続く。

< 213 / 678 >

この作品をシェア

pagetop