ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 ハインリヒが聞くと、ジークヴァルトは無表情で即答した。

「もっと明るい方へ。それだけだ」

 やはり抽象的な言葉で、リーゼロッテには理解しがたかった。

「感覚的なものだから、言葉にはしづらいな。一度、その手で浄化できれば難しいことではないはずなんだけど」

(はじめて自転車に一人で乗れた時のような感覚かしら?)

「でも……(ぜろ)(いち)にするのがいちばん難しいのですわ」

 リーゼロッテがぽつりと言うと、小鬼が心配そうにスカートの間から顔をのぞかせた。

 ふいにリーゼロッテの口に、クッキーが詰め込まれた。驚いて顔を上げると、ジークヴァルトが無表情のままリーゼロッテの唇にクッキーを押し付けていた。

「お前、最近食わないな。もっと食べろ」
「じーふばるとはま」

(そんなにつめこまれては咀嚼もままなりません……)

 ハムスターのようにもごもごとやっていると、カイが紅茶を淹れなおしてくれた。

「ありがとうございます、カイ様」

 ようやく口の中のものを胃に流し込むと、リーゼロッテはジークヴァルトに苦笑いを向けた。

(ジークヴァルト様なりに、なぐさめてくれたのかしら?)

 相変わらず唐突で分かりづらい男だったが、なんとなく彼の人となりが分かってきたようにも思う。

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