ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 リーゼロッテがジークヴァルトの腕の中で目にしたのは、真っ黒な廊下だった。それが異形の塊であると認識するまで、そう長い時間はかからなかった。

「しっかりつかまっていろ」

 そう言うとジークヴァルトは駆け出した。乱暴な足取りにリーゼロッテの体が跳ねる。片腕でのみで抱えられ、不安定さはいつもの移動の比ではなかった。それだけ余裕がないということだ。

 異形たちの咆哮が耳ざわりに響く。リーゼロッテはジークヴァルトにしがみついてぎゅっと目を瞑った。

((( コワイイタイニクイイヤダクルシイシニタクナイナゼジブンダケツライドウシテドウシテドウシテ……)))

 異形たちの叫びが頭の中に直接響いてくる。リーゼロッテは耳を塞ぎながら「やめて」と知らず叫んだ。

「のみこまれるな!」

 強い声音にリーゼロッテは意識を引き戻される。

「大丈夫だ、オレがいる」

 ジークヴァルトのその言葉に、リーゼロッテはただしがみつくしかできなかった。

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