ふたつ名の令嬢と龍の託宣
     ◇
 ある意味、王城は静まり返っていた。

 ここ最近、体調不良を訴える者が続出し、物が壊れたり怪我をする人間も少なからずいたが、今日になって突然その人数が激増していた。

 普段はせわし気に行き交う文官や城仕えの者も見当たらず、王城内は人気(ひとけ)がなく閑散としていた。ぴりとした静けさが王城全体を包んでいる。

 しかし、見る者が見れば、そこは阿鼻叫喚の地獄絵図だった。王城の廊下という廊下を、異形の者がひしめき合い埋め尽くしているのだ。どこから集まったのだと感心してしまうくらい数多(あまた)の異形だった。

「一体何がどうなっているのだ?」

 ハインリヒはその手を振り払いながらどちらに進むべきか躊躇していた。幼少期から過ごす王城だというのに、異形があまりにも多すぎて、方向感覚が狂ってくる。

 カイにはジークヴァルトを連れてくるようにと、執務室へと戻らせた。

 王城の護衛騎士団の近衛第一隊は、表向きは王太子の護衛専門であったが、その中には異形に対応する特務隊が存在しており、ジークヴァルトとカイをはじめ、その他、力ある者十数名がそれに所属していた。

 普段は異形がらみの事件であちこち散らばっている彼らには、最近の問題もあって、王城に戻るよう召集をかけてあった。しかし、遠方に赴いているものが大半で、対応が遅れて今に至っていた。ハインリヒは自身の対応の甘さに舌打ちをした。

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