ふたつ名の令嬢と龍の託宣
(とにかく油断大敵、君子危うきに近寄らず、ね。今の今まで、何事もなく、もないかもしれないけど、無事に過ぎているのが本当に奇跡なのだから……)

 とりあえず、先ほど倒れていった庭のオブジェのことは、きれいさっぱり忘れることにした。あれは猫のせいなのだ。

 改めて気を引き締めつつ、王妃様にはご挨拶したし、王子が来る前にお暇してしまおうか。そんなことを考える。しかし、王妃に王子が来ると念を押されてしまった手前、それもはばかられた。

「王太子殿下付きの護衛騎士と言えば、最近、公爵位をお継ぎになった、ジークヴァルト・フーゲンベルク様ですわよね」

 ふいに、別の令嬢の声が割り込んだ。同じ円卓の少し離れたところで、ひとり静かに座っていた令嬢が、こちらに微笑みかけている。ブルネットの髪に榛色(はしばみいろ)の瞳をした、おとなしそうなご令嬢である。

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