ふたつ名の令嬢と龍の託宣
     ◇
「もう少しだ。我慢しろ」

 ジークヴァルトがそう声をかけるが、リーゼロッテは耳をふさいだままその身を縮こまらせて、ジークヴァルトの胸に顔をうずめていた。もう周りを見やる余裕もない。頭の中が破れ鐘(われがね)のようにガンガン響いていた。

 異形の叫びは多すぎて、もはや何を言っているのかさえ聞き取れない。だた、悲痛な苦しみばかりが伝わってきて、心が押しつぶされそうになる。

(――違う、これはわたしの感情(こころ)じゃない)

 同調するなと言われ、リーゼロッテは必死にそれに抗おうとした。

 ハインリヒを先頭に、リーゼロッテを抱えたジークヴァルトが続く。王城の中心部にある階段を駆け上がり、一行は玉座の間をひたすら目指した。

 重厚で豪奢な扉の前には、誰も控える者はいなかった。中に王はいないということか。

 普段は屈強な護衛が二人がかりで開けるその重い扉を、ハインリヒは力の限り押し開いた。赤い絨毯が一筋敷かれ、その先、部屋の最奥の一段上がった壇上に王と王妃のための椅子が鎮座している。

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