ふたつ名の令嬢と龍の託宣
「ごめん、ちょっとだけこうしてて」

 アンネマリーの肩に顔をうずめたカイが、うめくように言った。アンネマリーはカイを抱きしめ返すこともできずに、そのまま動けないでいた。

 リーゼロッテの守護者の力は、玉座の間から同心円状に広がり続けていた。その力が王城の奥まったこの客間ももれなく包み込んでいく。

 カイはビリビリと全身を(さいな)むような神気に苦悶の表情で耐えていた。アンネマリーを抱きとめる腕が震え、いたずらに力が入る。はっと息を吐くが、うまく吸い込むことができない。

 清らかすぎて生物が生きられない静謐(せいひつ)な水の中のようだとカイは思った。

(綺麗すぎて反吐(へど)が出る……!)

 カイは己の深部にまで浄化しにかかる圧倒的な力に、殺意に近い苛立ちを憶えた。

「さ、わんな」
 ――オレの心に

 ギリとその歯を食いしばった。

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