ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 カイはアンネマリーの両の二の腕をつかむと、自分の体からぐいと引き離した。

「ごめん、ありがとう。もう大丈夫」

 そう言って立ち上がると、手を引いてアンネマリーも立ち上がらせた。

「ここはもう大丈夫そうだから、オレは行かなくちゃ。ああ、でも迎えが来るまで、絶対に部屋を出ちゃダメだからね」

 そのまま部屋を出ていこうとして、「ああ」とカイは何かを思い出したようにアンネマリーを振り返った。懐に手を入れて何かを取り出し、握りこんだ手をアンネマリーの目の前で開いて見せた。

 その手のひらにはハインリヒの懐中時計が乗せられていた。

 見覚えのあるそれを差し出したカイを見やり、どうしてこれを彼がもっているのだろうとアンネマリーは小首をかしげた。

「ハインリヒ様が、アンネマリー嬢に持っていてほしいって」

 アンネマリーの白い手を取り時計を握り込ませると、カイはやわらかくふっと笑った。

 常々、彼の貼り付けたような笑顔が胡散臭いと感じていたアンネマリーは、カイの素の笑顔を見て目を丸くした。

「じゃあ、オレ行くね」
 
 そう言ってカイは静かに扉を閉めた。

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