ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 残されたアンネマリーは、手のひらの時計をみやる。ハインリヒが肌身離さず持っていた懐中時計だ。

 その蓋を開くと時計の針が静かに時を刻んでいる。

 殿下の庭で、これを開いて文字盤を確認しては、ハインリヒはいつも残念そうな顔をした。

『時が止まってしまえばいいのに』

 いつかハインリヒがそう呟いたとき、アンネマリーはハインリヒへの気持ちを自覚した。

 時計の蓋の内側には、アメジストのような石がはめられている。ハインリヒの瞳の色だ。その紫にきらめく石をアンネマリーはそっとなぜた。

 陽だまりのような波動を感じて、アンネマリーは胸の前で、ぎゅっとその時計を握りしめた。

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