ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 異形たちの暴走による事後処理や滞っている政務など、やらなくてはならないことが山ほどあった。あまりの忙しさに、最近はアンネマリーと話はおろか、その顔すら見ることもできていない。

 ハインリヒはいつになく苛立つ日々を送っていた。

「リーゼロッテ嬢は、しばらくフーゲンベルクで保護したほうがいいのかもしれないな」

 王城でまたあの騒ぎが起きないとも限らない。フーゲンベルク家なら、ジークヴァルト以外にも力あるものがいるので有事の際は対応がしやすいだろう。

 ハインリヒは目頭を押さえ、疲れたように言った。今、ジークヴァルトが政務補佐を離れるのは戦力的に痛いが、リーゼロッテの件を後回しにもできなかった。

 あの日、玉座の間や後宮、王妃の離宮にいた者たちは、王の計らいでみなその場にはいなかったようだ。王はこのことを予見していたのか。
 ハインリヒは、父であるディートリヒ王にも苛立ちを感じざるを得なかった。

「……申し訳ございません、わたくしが至らないばかりに」

 リーゼロッテの蚊の鳴くような声にハインリヒは、はっとして首を振った。

「いや、リーゼロッテ嬢の責任ではない。そうだろう? ジークヴァルト」

 冷ややかに言われたジークヴァルトは「そうだな」とだけ返した。

「行くぞ、カイ」

 ジークヴァルトの反応に苛立ったようにハインリヒは立ち上がった。

「最近、癒しが足りてないからねー」

 カイは肩をすくめて、不機嫌なまま応接室を出ていったハインリヒの後を追った。

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