ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 ジークヴァルトは次に、リーゼロッテの力を引き出せないか試みた。膜が解ける感覚をイメージして。

「ふ」

 リーゼロッテの口から、小さな吐息がもれる。

 ジークヴァルトの力に引っ張られるように、膜の隙間からリーゼロッテの力がほんの少しだけ漏れ出てきた。それは針穴のような小さなものであったが、確かにそれは外に導かれていた。

 ジークヴァルトは一度力を注ぐのをやめた。それに合わせてリーゼロッテもくたりともたれかかってくる。

「大丈夫か?」

 上からのぞき込むと、リーゼロッテは顔を上げこくりと頷いた。

「続けても大丈夫です」

 そう言うと、リーゼロッテはその緑の瞳をそっと閉じた。

 リーゼロッテの長い睫毛が、その頬に影をつくる。ジークヴァルトはそれを上からじっと見つめていた。

「ヴァルト様?」

 不思議そうにリーゼロッテがジークヴァルトを見上げ、上目遣いの視線を送ってきた。

 しばらくじっと見つめ合ったあと、ジークヴァルトは何も言わずにリーゼロッテの両手を自分のそれですっぽりと包み込んだ。

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