ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 王女の話し相手と言っても、始終客人のように扱われたため、アンネマリーは自分の王城滞在に何か裏があるのではないかと危惧していた。

 他国との外交を担う父が、権力を握り過ぎないようにするための人質だろうか? しかし、自分の父がそんな野心を抱いているとも思えない。クラッセン侯爵家は代々王家派だ。長い歴史において王家との軋轢なども皆無だった。

 王妃に休暇をもらって久しぶりに領地に帰ったときも、母のジルケはそんなそぶりは見せなかった。むしろ、「そうそうない体験なのだから存分に楽しめばいいじゃない」とあっけらかんと言われ、アンネマリーは苦笑したくらいだ。

 そしてその時、初めからこの滞在は期限付きのものと王家から申し入れがあったことを知らされた。

「リーゼは先にダーミッシュ領に戻るのね?」

 リーゼロッテは、十五歳の誕生日を前に一度領地に帰ることになったため、その挨拶でアンネマリーを訪ねていた。

 リーゼロッテが異形を祓ったあの日のことを、アンネマリーは深く尋ねなかった。何か事情がありそうだったが、表向きは賊の侵入ということで片付けられていた。

 何も知らされないということは、自分が知るべきことではないのだろう。

 あの日以来、アンネマリーは王子と一度も会っていない。預かっている懐中時計も、アンネマリーが持ったままだ。

(時計がなくて不便を感じていらっしゃらないかしら……)

 幾度となく殿下の庭へ行ったが、そこに猫と戯れるハインリヒの姿を見つけることはできなかった。

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