ふたつ名の令嬢と龍の託宣
「でも……」

 アンネマリーは不安そうに言った。
 手渡されたのは王子自身ではなく、カイの手からだった。

 ハインリヒの本意が分からないまま期待するのはおろかなことだと、アンネマリーは自分に何度も言い聞かせた。

「わたくしがジークヴァルト様にお願いすることもできるけれど……。お返しするにしても、やっぱりアンネマリーが直接お渡ししたほうがよいのではないかしら?」

 リーゼロッテの言葉に、アンネマリーは力なく小さく頷いた。

 アンネマリーの客間から帰る途中、リーゼロッテはずっと考えていた。

 ハインリヒ王子は、自身の託宣のことで重大な悩みを抱えているようだった。どういった事情かはわからないが、龍の託宣がある以上、個人的な感情で王太子妃を選ぶことなどできないだろう。

 ――アンネマリーの恋は、哀しい結果になるのかもしれない。

 ふたりが惹かれ合ってるのをこんなにも真近で感じてるのに。


 リーゼロッテにはどうすることもできない自分に歯がゆさを感じていた。

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