ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 王城の廊下を進むうちに、向かう方向から緊張をはらんだざわめきを感じた。

「おや? 王のおなりのようだ。ダーミッシュ嬢もこちらへ」

 キュプカーに促されてリーゼロッテは廊下の端に寄り、膝をついて礼を取った。

 廊下の向こうから、赤毛の美丈夫が大勢の人間を従えて歩いてくる。デビュー前のリーゼロッテは王に謁見したことはない。緊張でのどが渇いてくる。

(すごいオーラだわ)

 カリスマとはかくやといった感じだった。

 王の一行はやがて近づき、リーゼロッテの目の前を通り過ぎようとした。礼をとって目線を下げていたが、リーゼロッテは王のすぐ斜め後ろを王子が歩いていることに気がついた。

 王が通り過ぎた後、注意深くリーゼロッテは目線を上げた。ハインリヒ王子の様子が気になったからだ。

 しかし、リーゼロッテは上げた視線のその先で、ディートリヒ王のそれとぶつかった。金色の瞳は雄々しく、獅子のようだ。囚われたかのようにリーゼロッテは、からんだ視線を外すことができなかった。

 通り過ぎざま、ディートリヒ王は横目でリーゼロッテを見やっていた。

 王と視線を合わすなど、不敬罪に問われても仕方がない。リーゼロッテが青ざめた表情をすると、ディートリヒ王はその口元にうっすらと笑みを浮かべた。

 それはほんの一瞬のことで、王の一行は何事もなかったかのように廊下を通り過ぎていく。

 王子殿下はこちらに一瞥もくれず行ってしまった。

 列の後方にカイの姿があったが、カイはリーゼロッテに気づくと、こちらが心配になるほど大げさにウィンクをよこしてきた。どんな状況でも平常運転のカイであった。

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