ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 リーゼロッテは呆然として、王が去った後も跪いたまま立ち上がれないでいた。

「ダーミッシュ嬢? 王の気にでも充てられたか?」

 キュプカーは手をとってリーゼロッテを立ち上がらせる。

 リーゼロッテは涙目になって、「キュプカー様、わたくし、どうしいたしましょう」と震える声で言った。

 キュプカーは怪訝な顔をして、リーゼロッテにどうしたのかと問うてみた。

「わたくし、先ほど、ディートリヒ王と目を合わせてしまいました。王は口元に笑みを浮かべられて……」

 ようやくそれだけ言うと、リーゼロッテは今にも泣きだしそうな顔になった。不敬罪に問われたら、養父母に迷惑をかけるかもしれない。そう思うと生きた心地がしなかった。

「なんと。あの王の笑顔を見られたのか」

 だが、キュプカー反応はリーゼロッテの予想に反するものだった。

「ダーミッシュ嬢は運がいい。王の笑みを見た者は、しあわせになると言われている。それほど貴重なものなのだ」

(何、そのケサランパサランみたいな扱いは)

 リーゼロッテが言葉を失っていると、キュプカーは安心させるように言葉を続けた。

「なに、王はうら若き令嬢と目が合ったくらいではお怒りにはなるまいよ。そもそもあの王がお怒りになった姿など、誰ひとりとして見たことがない」

 ディートリヒ王は賢王であると、平民から慕われている。それを疎ましく思う利権主義の貴族はいたが、キュプカーはそんな王を心から好ましく思っていた。

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