ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 光り輝くような髪色のハインリヒ王子殿下の斜め後ろに、黒衣をまとった黒髪の護衛騎士がひとり立っていた。時折、ハインリヒ王子がその騎士に、何かをささやいている。

「金髪の不機嫌王子に、そばに仕える黒髪の騎士。王子の甘いため息。黒衣の騎士様は無表情、完・全・装・備! その鋭利な瞳の奥に秘めた熱い物は何……? 禁断! これぞ禁断の愛ですわぁ」

 ヤスミンはいったいどんな妄想を膨らませているのやら。内緒話をしているような王子と騎士の近い距離に、うっとりとしたため息をついた。

 あー、尊いってやつですかー、と普段のリーゼロッテならばそれくらいの脳内突っ込みを入れていたかもしれない。しかし、実際はそれどころではなかった。

 黒衣の騎士の正体は、ジークヴァルト・フーゲンベルク。ヤスミンの言うように、王子付きの護衛騎士であり、ニ年前にフーゲンベルク家を継いだ若き公爵でもある。

 そして、彼こそが、リーゼロッテの決められた婚約者であった。

(こんなところで会うなんて……)

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