ふたつ名の令嬢と龍の託宣
「王子殿下?」

 王子の許しが出るまで礼をとり続けている彼女を見やり、キュプカーはハインリヒを困惑した声で呼んだ。

「あ、ああ。長旅、ご苦労だった。顔を……上げてくれ」

 かすれた声でようやくそう言ったハインリヒは、立ち上がった女性騎士、アデライーデの視線を真っ直ぐに受けた。ハインリヒの表情が、苦しみに満ちたものに変わる。

「王子殿下、わたくしめに思うところはありましょうが、今は王太子としての職務をご全うください」

 アデライーデの感情のこもらないその言葉に、ハインリヒはどさりと椅子に腰かけた。

「ああ、そう、だな。……報告を聞こう」

 そう言ったハインリヒだったが、彼女の口から発せられる報告はほとんど頭に入っておらず、言葉を紡ぐ彼女の唇の動きを、ただ見ているに過ぎなかった。

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