ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 彼女が去った後、ハインリヒは呆然自失の様子で固まっていた。しばらくの後、幽霊のような顔色でふらりと椅子から立ち上がる。

「一時間で戻る。今は……一人にしてくれ」

 かすれた声で言うと、ハインリヒは執務室を出ていった。その背中を見送りながら、キュプカーは沈痛な面持ちで小さくため息をついた。

(おふたりのあの噂は本当だったのだな……)

 しかし、自分ごときが口を挟むことではない。

 そう思ったキュプカーは、せめて王子殿下の負担が軽くなるようにと、山積みになった書類の束に手を伸ばした。

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