ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 以前の生活ならば、カップが割れるなど日常茶飯事の風景だったが、今、まさにそれと同じことが起こり、リーゼロッテは激しく動揺した。

 それだけではなかった。

 応接室の調度品も、ガタガタと音を鳴らしてふるえている。浄化を受けていた小鬼たちも、おびえたように床の上を逃げまどっていた。

(周囲の異形たちが騒いでいる)

 ジークヴァルトはリーゼロッテをその腕に抱きしめながら、あたりを警戒した。すると、ざわついていた空気は、すっと引いて何事もなかったかのように静寂を取り戻した。

「何だったのだ、今のは?」

 ジークヴァルトはそう呟いた後、腕の中のリーゼロッテをみやった。リーゼロッテは涙目でジークヴァルトを見上げると、震える声で言った。

「ヴァルト様……今のもわたくしのせいですか?」
「いや、今のはお前のせいではない。むしろ……」

 そう言ったあと、ジークヴァルトは押し黙った。

(オレは今何をしようとした?)

 リーゼロッテからその身から離すと、ジークヴァルトはそのままじっと考え込んでいた。

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