ふたつ名の令嬢と龍の託宣
「なんだ?」

 訝し気に問われたリーゼロッテは、手に持った書類をジークヴァルトの前に差し出し、ぎこちなく聞き返した。

「こちらの署名は、ジークヴァルト様のもので間違いございませんか?」
「ああ、そうだが。それがなんだ?」

 それを聞いたリーゼロッテは、口をすぼめて変な表情になった。

「なんだ? すっぱいものを食べたような顔をして」
「い、いいえ、なんでもありませんわ」

 慌てたようにリーゼロッテはかぶりを振った。

(エラに、エラに確かめなくては)

 リーゼロッテは目の前の惨状もすっかり忘れて、この事実を否定してくれる誰かを求めていた。

 ――リーゼロッテの子供の頃の文通相手が、ジークフリートではなく、はじめからずっと、ジークヴァルトであったという事実を。
 
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