ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 ハインリヒに気がつくと、アンネマリーは輝くような笑顔を真っ直ぐに向けた。

「ハインリヒ様!」

 そう言った後、触れないよう約束した猫の殿下を腕に抱いていることを思い出し、アンネマリーはばつの悪そうな顔をした。

「あのこれは、殿下から自分で……」

 ハインリヒならきっと笑って許してくれる。ハインリヒが時折見せるやさしい苦笑いの表情が、アンネマリーはとても好きだった。

 ハインリヒはそんなアンネマリーを前にして、心のままに手を伸ばしたくなる。だが、もう許されない。いや、初めから許されるはずなどなかったのだ。

 爪が食い込むほどにハインリヒは自身の手を握りしめた。

「……いでくれ」

 うつむいたまま、ハインリヒは低い声で言った。

「え?」

 アンネマリーは、ハインリヒの顔に、表情が全くないことに戸惑いを感じた。

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