ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 バルバナスはディートリヒ王の実兄だ。王兄であり、大公と言う地位にありながら、公務もそこそこに辺境の地でわりと気ままに過ごしている自由人だ。

 根っからの武人で、国の騎士団の頂点に立つ立場でもあり、脳筋の騎士たちにはことさら人気が高い。女だてら騎士として働くアデライーデも、そんなバルバナスを慕って彼の元で任務に就いているとカイは聞いていた。

「バルバナス様も本当に使えないお方だこと」

 イジドーラは珍しく苛立ちを含んだ声で言った。

「呼び戻されたって……それは王の命ですか? だとしたらさすがのバルバナス様も嫌だとは言えませんよ」

 カイは大げさに肩をすくめて見せた。

「……まあ、いいわ」

 扇を広げると王妃は囁くように言った。

「王は眠り姫をジークヴァルトの小鳥につける気でいるわ」
「あー、なるほど……妥当と言えば妥当なんじゃないですか?」

 むしろ、いずれフーゲンベルク家に嫁ぐ彼女のお目付け役としては、アデライーデほどの適任者はいないだろう。リーゼロッテの今の状態を(おもんぱか)るに、そこに突っ込みを入れる余地は見当たらない。

「これは諦める他なさそうですよ? イジドーラ様」

 カイがそう言うと、子供のように拗ねた顔をしたあと、王妃はつんと顔をそらした。

「そんなかわいい顔しても、王を喜ばせるだけですよ」

 何枚も上手なディートリヒ王に、イジドーラはこれからどう出るのか。カイは予想もできない展開を期待している自分に、ろくでもないな、と我がことながらあきれていた。

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