ふたつ名の令嬢と龍の託宣
(それにしても……ハインリヒ様も、もう少しうまくやればいいものを……)

 王子の愚直なまでの真面目さは、一周回って尊敬に値する。自分では逆立ちしても真似できそうになかった。

 嗚咽をこらえるアンネマリーを前に、カイはどうしたものかと思案した。

「カイ様」

 震える声で名を呼ぶと、アンネマリーはハインリヒの懐中時計を差し出した。こんなときでも気丈に振るまおうとする姿が彼女らしいとカイは目を細めた。

「こちらを……王子殿下にお返しして頂けませんか?」

 傷ついて弱くなっている令嬢につけこむなど、カイにとってはお手の物だったが、今はどうしてかそんな気分になれなかった。

 なんだかんだいっても自分は、あの不器用でクソ真面目な心優しい王子のことを気に入っているのだ。イジドーラのことを抜きにしても、そう認めざるを得ないと、カイは自嘲気味に笑った。

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