ふたつ名の令嬢と龍の託宣
「アンネマリー嬢……オレが言うべきことではないと思うけど……ハインリヒ様のこと、信じてやってもらえないかな?」

 そう言ってカイは、差し出された手を時計ごと自身の両手で包み込み、懐中時計をアンネマリーに握らせた。

「大丈夫だから……これはこのまま君が持っていて」
「ですが、わたくしは……」

 カイの言葉に、アンネマリーの瞳が動揺に揺れる。あの時の凍るようなハインリヒの瞳を思い出し、水色の瞳から、再び涙がこぼれ落ちた。

(ああ……なんて綺麗なんだ)

 その涙が自分のためでないことを、カイは少し残念に思った。もしも彼女の全てが自分のものだったなら。

 もっと滅茶苦茶にできるのに――

 カイはその目じりに口づけたいのを我慢して、人目につかないよう、アンネマリーを王妃の離宮へと送っていった。

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