ふたつ名の令嬢と龍の託宣 -龍の託宣1-
「その公爵様は、ジークフリート様? それともジークヴァルト様?」
リーゼロッテがそう聞き返すと、エラはぱちぱちと瞬きしながら答えた。
「ジークヴァルト様かと」
「初めから? 今の今まで?」
「はい、そのように聞いております」
エラが伯爵家に来る以前のことは定かではないが、エラがリーゼロッテの侍女となったとき、すでにリーゼロッテは公爵家からの手紙を心待ちにしている状態だった。
家令のダニエルからは、その手紙の主は、婚約者である公爵家の跡取りだと教えられた。
「でも、ようございました。あんなに公爵様からのお手紙を心待ちにされていたお嬢様が、公爵様が爵位をお継ぎになったとたん怖がるようになられて、ずっと心配しておりましたから」
それは手のひらを返すかのようだった。贈り物はおろか、喜んでいた手紙まで見たくもないとおびえるリーゼロッテに、エラはずっと心を痛めていた。
公爵が爵位を継いで結婚に現実味が増し、怖くなったのだとエラは思っていたのだが。最近のリーゼロッテの様子を見て、エラはすっかり安心していた。
エラはいまだ公爵の威圧感に恐怖を感じるが、リーゼロッテがやさしい人だと笑顔を見せるようになったので、急な王城滞在も悪いものではなかったとエラは思っていた。