ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 リーゼロッテは、その事実に打ちひしがれていた。なにしろ、ジークフリート宛だと思って書いていた手紙には、今思うととても恥ずかしいことを書いていたのだから。

 幼少期、よく転ぶリーゼロッテは、マナー講師としてある夫人にいろいろと教えてもらっていた。転ばない歩き方から、こぼさない紅茶の飲み方、日常生活を安心安全に過ごせる立ち居振る舞いを教わった。

 その中には手紙の書き方なども入っていて、リーゼロッテはその夫人に「愛する方へ送る手紙のしたため方」を享受してもらった。

 教えてもらった手紙の書き出しはこうである。

《愛しい人へ》もしくは《わたくしのあなたへ》

 ちなみに手紙の結びは、《わたくしはあなただけのもの》であった。

(子供になんてこと教えるのよ、ロッテンマイヤーさん)

 ロッテンマイヤー呼びは脳内のみのものだった。夫人の長い名前が覚えられなかったからだ。

 子供の頃も日本での知識はもちろんあったが、異世界の文字や言い回しは年相応に覚えたてだった。当時は意味もよくわからず、拝啓や前略、草々、かしこ的な扱いで、それなりの年齢になっても、もはやテンプレートのようにその書き出しと結びを手紙に書いていた。

 そんな内容の手紙をジークヴァルトのもとへ、何通も 何通も 何通も 届けていたのだ。

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