ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 文字を覚えたての当時ジークフリートの綴りがわからず、適当にあなたでごまかしていたのがいけなかった。返事の手紙の署名は例のごとく『S.Hugenberg』で、ジークフリートでもジークヴァルトでも、どちらともとれるのも原因だ。

 なぜ、フルネームで署名しないのかと、リーゼロッテはジークヴァルトに逆恨みに近い感情を抱いた。ジークヴァルトの事だから、どうせ面倒くさいなどの理由だろう。

 ジークヴァルトが公爵位を継いでからは、社交辞令オンリーな手紙しか送っていないが、二年前以前は、会えない婚約者にあてた恋文のような内容だったはずだ。

(恥ずかしすぎる……!)

 あのジークヴァルトにむかって、わたくしのあなただの、どうして言えようか。

 リーゼロッテは頭を掻きむしって、そこらじゅうをごろごろと転げまわりたい心境に駆られていた。
 淑女としてそんな振る舞いはできようもなく、リーゼロッテは脳内で悶絶しつつ、住み慣れた屋敷へと到着したのであった。

< 352 / 678 >

この作品をシェア

pagetop