ふたつ名の令嬢と龍の託宣
     ◇
 リーゼロッテは久しぶりの自室を見回していた。寝台とテーブルとソファ以外何もない、質素な部屋だ。

 屋敷内の廊下に、ちらほら異形たちがいたが、この部屋にはいないようだった。廊下の異形も、ジークヴァルトの守り石のおかげで、リーゼロッテに近づいてくることはなかった。

 リーゼロッテが転ぶこともなく歩いていると、ハラハラと見守っていた使用人たちは驚きの表情をした。今までさんざ迷惑をかけてきたことに心の中で謝りつつ、リーゼロッテは何食わぬ顔をして屋敷の中を優雅に移動していった。

 リーゼロッテは、まず自室の横の衣裳部屋に置いてある机の引き出しを開けてみた。この衣裳部屋は今まではリーゼロッテが足を踏み入れることはなかったが、守り石を持っている今は問題なく入ることができた。

 机の引き出しの奥から、シンプルな木の箱を取り出す。その木箱の蓋を開けると、少し黄ばんだ封筒の束が入っていた。初恋の人のジークフリートからだと思って、大事にしまってあった思い出の手紙だ。

 一番上の封筒を取り出し、その中の便せんを確かめる。そこに書かれた署名は、やはり王城で見たジークヴァルトの筆跡と同じものだった。

 箱の一番下の封筒を取り出し、同じように便せんを開いた。黄ばみが強いので、中でも古い手紙だろう。幼い筆跡だったが、やはり本人を思わせるクセのある署名が書かれていた。

 その手紙は、全部で十五通ほどだった。どの手紙も、承知した、とか、問題ない、とか、そんなそっけない内容だった。

(まんまジークヴァルト様じゃない)

 リーゼロッテは改めて呆然とした。

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