ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 リーゼロッテは動けなかった。

 ヘビに睨まれたカエルもきっとこんな気分なのだろうか。黒い霧をまとい、猛然とした勢いでこちらに向かってくるジークヴァルトに為すすべもなく、どこか他人事のようにリーゼロッテはそんなことを思った。

(ああ、おとうさま。おかあさま。かわいいルカ。そしてエラ。おやしきのみんなも、ほんとうに、いままでたくさんありがとう)

 暗黒のモヤに包まれたジークヴァルトが目の前まで迫ったとき、リーゼロッテは覚悟を決めてぎゅっと目をつぶった。

 彼の手がリーゼロッテの二の腕を乱暴につかんだその瞬間、リーゼロッテの中で何か大きな塊が、バチンとはじけ飛んだ。

< 36 / 678 >

この作品をシェア

pagetop