ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 アデライーデは、自分の社交界デビューのときにドレスの生地や色、デザインなど、母親と一緒になってああでもないこうでもないと準備を進めたことを思い出していた。

 あの頃は未来が希望に満ちていて、幸せが何かなどと考えもしなかった。ただ、当たり前のように、昨日と変わりのない明日がやってくるのだとそう信じて疑わなかった。

 無欲なリーゼロッテにも、そんな幸せな記憶を少しでも多く作ってほしい。それがただの自分の自己満足だったとしても。

「リーゼロッテもそれでいいわよね?」
「ありがとうございます、アデライーデお姉様」

 アデライーデに聞かれ、リーゼロッテはフーゴとクリスタの気持ちまで思い至ってなかったことに気がついた。自分はなんて幸せ者なのかと、リーゼロッテはじんと胸が熱くなる。

「わたしも義姉上のために何かしてさしあげたいです」

 それまで黙っていたルカが、やはりさみしそうに言った。

 ルカは貴族として自分の立場はわきまえているつもりだったが、公爵の存在は大きすぎて、大好きな姉を取られてしまうのが悔しかったのだ。

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