ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 肖像画とは、往々にして本人よりも美化されて描かれるものなので、知らない人が見たらもっとましな絵はなかったのかと言うかもしれない。

 しかし、普段のジークヴァルトを知る人間からすると、この肖像画は、日常を切り取ったとてもやさしい絵に思えた。

「子供の頃のジークヴァルト様はどんな感じだったのですか?」

 アデライーデは少し考えた後、「今のまんまよ」と答えた。

 ジークヴァルトは昔から無表情で、感情の機微に乏しい子供だった。口数も少なく、合理主義で無駄なことが嫌いな、可愛げのない弟だった。必要なことは黙々とこなしてはいたが、物に執着するということが全くなかった。

 ジークヴァルトが心を開いていたのは、それこそあの黒馬だけだったのではないだろうか。ジークヴァルトが愛馬を失った時の様子は、まわりが見ていられないほどそれはひどいものだったから。

 そんなことを思いながら、アデライーデはリーゼロッテをじっと見つめた。

 その視線に小首をかしげながら微笑んだリーゼロッテは、次の瞬間、アデライーデにぎゅっと抱きしめられていた。

(失えないわ、絶対に)

「アデライーデ様?」
「ジークヴァルトを見捨てないでやってね?」

 さびしげな表情で微笑むアデライーデに、リーゼロッテは困惑した。

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