ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 アデライーデがリーゼロッテを馬の背に乗せようとした正にそのとき、屋敷の中から慌てたように家令のダニエルがやってきた。

「リーゼロッテお嬢様、公爵様からお手紙が届いております」

 夕べ出した追加の手紙の返事だろうか。ルーチンの手紙の返事は昨日のうちに届けられていた。

(そんなに急ぐことないのに。どうせまた『承知した』としか書いてないのだろうし)

 日程が決まる前にピクニックに行くだろうことは既に報告済みだった。だから、リーゼロッテはそんなふうに思ったのだが、開いた手紙には、思ってもみないことが書かれていた。

『馬には乗るな。絶対にだ』

 それだけだった。いつも以上に簡素な手紙で、しかもあわてて書きなぐったかのような印象を受けた。

「何てよこしてきたの?」 

 リーゼロッテが微妙な顔をしていたからだろう。アデライーデが怪訝な顔で手紙をのぞき込んだ。

「……まったく」

 アデライーデはあきれたように言うと、「仕方ないわね、リーゼロッテは馬車でいきましょう」と気を取り直したように続けた。

 リーゼロッテは「はい」と返事をして、しゅんとしたまま馬車へと向かう。

(何かあったら困るのはわかるけど……。守り石だってこうしてつけているし、アデライーデ様だっていらっしゃるのに)

 やはりジークヴァルトはよくわからない男だと、心の中でため息をついた。

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