ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 なだらかな丘の花畑の真ん中で、ジークヴァルトのあぐらの上に横抱きにして座らされたリーゼロッテは、浅く息をしながら真っ青な空を見上げた。ゆっくりと流れていく白い雲をみやり、そっとペンダントの守り石を胸の間から引き抜いた。

 ほっと息をついていると、ジークヴァルトが乱れたリーゼロッテの髪をそっと梳いた。大きな手が頬にかかる横髪を耳に掛けていく。

「つらいのか?」

 近い距離で青い瞳にのぞき込まれて、リーゼロッテは大きな緑の瞳をあわてて伏せた。

「い、いいえ、もう大丈夫ですわ」

 無意識にペンダントの守り石をぎゅっとその手に握った。

 さっきまで馬に乗っていたはずが、どうして今ジークヴァルトの膝の上にいるのだろうか。リーゼロッテにはそれが理解できなかった。まさに、どうしてこうなった状態だ。

 そのまましばらく無言の状態が続く。さわやかな風が吹き抜けて、白い花畑が揺れるたびに花の芳香がやさしく広がった。

 立ち上がろうにもジークヴァルトの腕がしっかりと体に回され、身動きが取れない。力の制御の訓練で体が密着することは今までにもあったが、今のこの時間は何なのだろう?

 無駄を嫌うジークヴァルトがピクニックの雰囲気を楽しんでいるとも思えず、リーゼロッテはおずおずとジークヴァルトの顔を見上げた。

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