ふたつ名の令嬢と龍の託宣
「石に問題はないか?」

 そのタイミングでそう問われ、リーゼロッテは「はい、問題ございません」と咄嗟に答えを返す。
 たった今、問題があったばかりなのだが、馬に乗るときは守り石が跳ねないように、外してポケットに入れれば大丈夫だろう。そう考えたリーゼロッテは、肌に触れた石のことは何も言わなかった。

 ジークヴァルトはペンダントの石をリーゼロッテから取り上げて、顔の前まで持ち上げると確かめるように唇に寄せた。

「この守り石はほとんどくすまないのですね」

 リーゼロッテがそう言うと、ジークヴァルトは石を唇から離してリーゼロッテの胸元に落とす。ペンダントの鎖がしゃらりと鳴った。

「ああ、これは石が上質だからな。入る力の容量も多い」

 その言葉を聞き、リーゼロッテはその顔を曇らせた。

「申し訳ございません。せっかく贈って頂いた首飾りをペンダントにしたいなどと無理を申し上げて……」
「問題ない」

 ジークヴァルトの返事は、本当に気にしていないふうだった。

「それに、わたくしの社交界の準備のことですが、ダーミッシュ家にまかせてくださってありがとうございました」

 リーゼロッテがジークヴァルトを見上げながら言うと、「それも問題ない」とジークヴァルトは、近くで馬が草を食んでいるのを見やりながら言った。

「ただ、飾り物だけはこちらで用意する」
「この守り石がついていた首飾りと耳飾りでございますか?」

 リーゼロッテが小首をかしげつつ胸の守り石を手にしながら聞くと、「いや、それとは別の物を贈る」とジークヴァルトは無表情でそっけなく返した。

 石を戻せばあの首飾りで十分だ、と言いそうになったリーゼロッテは、公爵家の面子(めんつ)もあるのかと思いなおし、「お気づかいいただきありがとうございます」とうつむいた。

「ああ」と言ったジークヴァルトは、それきりそのまま黙ってしまった。

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