ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 強めに吹いた風がリーゼロッテの髪をさらっていく。蜂蜜色の髪がふわりと巻き上がり、陽の光にキラキラと反射した。舞い上がる髪を片手で抑えながら、リーゼロッテは困惑していた。

 広い花畑の真ん中で、ジークヴァルトの膝の上にのせられて抱きしめられている。これではまるで、久しぶりの逢瀬を楽しむ恋人同士のようではないか。

(違うわ。わたしが具合悪そうにしていたから降ろしただけよ)

 ちらりとジークヴァルトを見上げると、ジークヴァルトは丘の向こう、みなのいる方向をじっと見やっていた。リーゼロッテもつられてそちらの方に目を向けた。

 丘の向こうの面々は、みなこちらの方を向いているように見える。少し遠いので、ふたりが何をしているかまではわからない距離に思えたが、今の状態を家族に見られるのは少し恥ずかしかった。

(そろそろ膝から降りてもいいかしら……?)

 そんなことを思って遠くを見ていると、不意にリーゼロッテの口の中に甘い味が広がった。

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