ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 たまらずリーゼロッテはジークヴァルトの膝からはじかれるように立ち上がった。動揺で顔が赤くなっているのが自分でもわかる。

 勢いよく立ち上がりすぎて後ろに倒れそうになったリーゼロッテは、ジークヴァルトに手と腰をつかまれてぐいと引き寄せられた。

「急に立つな」

 下からくぐもったようなジークヴァルトの声がする。気づくとリーゼロッテは、膝立ちのままジークヴァルトのあぐらの上に乗り上げて、その頭を抱え込むようにしがみついていた。

(ぐはっ、余計恥ずかしい格好になっているっ)

 慌てて手を放して離れようとするが、ジークヴァルトの腕が腰に回されていて身動きが取れない。リーゼロッテは背中を反らせた姿勢で、仕方なしに距離が取れるようジークヴァルトの肩に手を置いた。

「あの、ヴァルト様……わたくしもう大丈夫ですので離してくださいませんか?」
「大丈夫のようには見えないが」

 赤くなったままの顔でジークヴァルトを見下ろしながら言うと上目遣いで返された。

 意味も分からず心臓の鼓動がドクドクと音を立てている。ジークヴァルトを真上から見下ろすなど、今までにない貴重なアングルだが、この姿勢は耐えられそうになかった。

「先ほどよろけたのは、土に足が取られただけです。ですからもう問題ないですわ」

 リーゼロッテが動揺を隠してそう言うと、ジークヴァルトはリーゼロッテの背後を覗き込むようにして、膝立ちになっているリーゼロッテの足先を見た。

 普段はドレスで隠れている足がくるぶしから先だけスカートの裾から覗いており、ヒールのある靴が土で汚れているのが目に入る。

 何を思ったのかジークヴァルトは座った姿勢のまま、リーゼロッテの背中を支えて膝裏をもう片方の腕ですくいあげた。

「ひゃっ」とリーゼロッテから再び淑女にあるまじき声が出た。

 気づくとリーゼロッテは横抱きにされた状態で、ジークヴァルトの膝の上にいた。つまるところ、初めの体勢に戻っただけだ。

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