ふたつ名の令嬢と龍の託宣
(心だけでも清くあらねば、いつかはみんなに見捨てられてしまう!)

 リーゼロッテは、いつしかそんな危機感を覚えた。

 だから、この世界では自分は決して可愛い部類には入らないと、リーゼロッテは信じて疑わない。家族や使用人の言うことは、身内のひいき目があってこそ。それを鵜呑みにして世間に出れば、己が恥ずかしい思いをするに違いない。

 一歩間違えば、乙女ゲームによくいる傲慢な悪役令嬢の仲間入りだ。

 その謙虚さがまた、周囲の人間の心を捉えていることに、リーゼロッテは気づいていなかった。誰に対しても分け隔てなく接し、常に気づかいと感謝の言葉を与えるリーゼロッテは、使用人にとっては理想の主人であった。

 リーゼロッテにしてみれば、日本人の価値観として、何も特別なことをしている感覚はなかったのだが、使用人からは妖精のように可愛らしいやさしいお嬢様と慕われていた。

 外に全く姿をみせないリーゼロッテは、使用人たちのそんな評判が相まって、巷では『深窓の妖精姫』などと呼ばれ、幻の令嬢扱いされている。知らぬは本人ばかりなり、であった。

「お嬢様、朝食の準備が整いましてございます」

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