ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 無言のまま手綱を操っていたジークヴァルトに、リーゼロッテは無意識に声をかけた。リーゼロッテを見下ろして、ジークヴァルトは「なんだ?」と無表情で返す。

 声をかけたものの、その後何を言おうとしていたのか自分でもわからず、リーゼロッテは戸惑うようにジークヴァルトを見上げた。何か言わなくてはと思うとかえって言葉が出てこない。ジークヴァルトの騎士服をつかむ手に、ぎゅっと力が入った。

「怖いのか?」

 そう言って、ジークヴァルトはゆっくり歩いていた馬を止めさせた。

「あ、いえ、そうではなくて……」

 ゆっくり歩く馬の背の上はもう怖くはない。しばし視線をさ迷わせた後、リーゼロッテは再びジークヴァルトの顔を見上げた。

「ヴァルト様……また馬に乗せてくださいますか?」

 その言葉にジークヴァルトはほんの少しだけ目を細めた。「ああ」とだけ言うと、再び馬を歩かせはじめる。

 公爵領は馬の産地で有名だとアデライーデが言っていたので、自分ももっと馬に慣れ親しんだほうがいいだろうとリーゼロッテは思った。

「わたくし、いつか一人で乗馬がしてみたいですわ」

< 430 / 678 >

この作品をシェア

pagetop