ふたつ名の令嬢と龍の託宣
「父上、せめて一度だけでも騎士団の訓練に参加してみたいです!」
「騎士のみな様は遊びでやっているわけではないんだ。ご迷惑をおかけするようなことは許可できない」

 フーゴの言葉にルカはしゅんとして、「わかりました。父上」と悲しそうに頷いた。

「見学くらいならいつでもさせてあげられますよ? ねえ、ジークヴァルト」

 申請さえすれば、騎士団の訓練は見学できる。それこそ筋肉目当ての暇な令嬢が連日押しかけているのだ。まれにハインリヒが顔を出すことがあるのだが、王太子が参加する日などは黄色い声援が飛び交ってそれこそお祭り騒ぎとなる。

 アデライーデの援護射撃にルカに笑顔が戻る。ルカはそのまま期待に満ちた目をジークヴァルトに向けた。

「ああ、問題ない。オレからも話を通しておこう」
「ありがとうございます! ジークヴァルト様!!」
「お手数をおかけして申し訳ありません……」

 ひたすら恐縮している父親をよそに、ルカは飛び上がらんばかりに喜んだ。

「ジークヴァルト様、よろしければこれからは義兄上(あにうえ)とお呼びしても構いませんか?」

 再びルカに笑顔を向けられたジークヴァルトは、「好きに呼べばいい」と相変わらずの無表情だ。

「ありがとうございます!義兄上」

 ルカは満面の笑顔でジークヴァルトの手を取った。

「あらあら、ルカもすっかりジークヴァルト様と仲良しさんね」

 クリスタが微笑ましそうなまなざしを向け、フーゴも仕方ないとばかりに眉を下げた。

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