ふたつ名の令嬢と龍の託宣
◇
「まあ、それはさぞお辛かったですわね」
リーゼロッテは庭の片隅の小さなベンチに腰掛けながら、となりの枯れた木の根元で膝を抱えている人物の話に深く頷いた。
ベンチのそばには小さな丸テーブルが置かれ、その上には紅茶のセットとお茶菓子が添えられている。紅茶はもちろん、リーゼロッテが座るこのベンチもテーブルも、公爵家の使用人たちがわざわざここまで運んでくれたものだ。
日よけのパラソルまで用意してくれたのは、毎日のようにその場に通うリーゼロッテを見かねた、庭師のおじさんだった。
『ううう、分かってくださいますか。ボクのこの胸の苦しみを』
「ずっとおひとりで抱えていらっしゃたのね。心中お察しいたしますわ」
リーゼロッテの言葉に、隣の男が滂沱の涙を流している。鬱陶しいほど長い前髪は鼻の頭まで伸びていて、目が隠れているため表情はあまり伺えない。しかし彼が悲嘆に暮れていることだけはひしひしと伝わってきた。
男は年の頃は二十代半ば、生成りのシャツとベストに糊のきいたスラックスを履いた身なりの良い格好をしている。彼は公爵令嬢付きの従僕だったそうだ。
過去形なのは、彼がもうすでにこの世の者ではないからだ。うっすらと透けて見える彼は、公爵家の庭に随分前からいる異形の者だった。
どこから見ても人にしか見えない彼を、異形の者と呼ぶことに違和感を覚えたリーゼロッテは、初めて会った日に何となく彼に話しかけてみた。それからというもの、この奇妙な異文化交流は続いている。
『ボクは取り返しのつかないことをしてしまったのです……』
「まあ、それはさぞお辛かったですわね」
リーゼロッテは庭の片隅の小さなベンチに腰掛けながら、となりの枯れた木の根元で膝を抱えている人物の話に深く頷いた。
ベンチのそばには小さな丸テーブルが置かれ、その上には紅茶のセットとお茶菓子が添えられている。紅茶はもちろん、リーゼロッテが座るこのベンチもテーブルも、公爵家の使用人たちがわざわざここまで運んでくれたものだ。
日よけのパラソルまで用意してくれたのは、毎日のようにその場に通うリーゼロッテを見かねた、庭師のおじさんだった。
『ううう、分かってくださいますか。ボクのこの胸の苦しみを』
「ずっとおひとりで抱えていらっしゃたのね。心中お察しいたしますわ」
リーゼロッテの言葉に、隣の男が滂沱の涙を流している。鬱陶しいほど長い前髪は鼻の頭まで伸びていて、目が隠れているため表情はあまり伺えない。しかし彼が悲嘆に暮れていることだけはひしひしと伝わってきた。
男は年の頃は二十代半ば、生成りのシャツとベストに糊のきいたスラックスを履いた身なりの良い格好をしている。彼は公爵令嬢付きの従僕だったそうだ。
過去形なのは、彼がもうすでにこの世の者ではないからだ。うっすらと透けて見える彼は、公爵家の庭に随分前からいる異形の者だった。
どこから見ても人にしか見えない彼を、異形の者と呼ぶことに違和感を覚えたリーゼロッテは、初めて会った日に何となく彼に話しかけてみた。それからというもの、この奇妙な異文化交流は続いている。
『ボクは取り返しのつかないことをしてしまったのです……』