ふたつ名の令嬢と龍の託宣
時折通りかかった使用人たちが、立ち止まってはぺこりとリーゼロッテに会釈をしていく。
リーゼロッテはそのたびに淑女の微笑みを返しては、公爵家の使用人をメロメロにしていた。もちろん、本人にその自覚は全くない。
公爵家の使用人たちは、そのほとんどが異形の者を目にすることができた。無知なる者ばかりのダーミッシュ家とは正反対である。異形の者を祓うほどの力はなくとも、日常で異形の存在に慣れ親しんだ者たちばかりであった。
彼らにとって、この泣いてばかりいる異形はもはや風景と化していた。たまに使用人の子供がちょっかいをかけるくらいで、その存在を気にかけるものなど皆無であった。
まして話しかけようなどと思う人間がいるはずもなく、そのためリーゼロッテの行動は、はじめのうちはみなに奇妙に映ったようだ。
しかし最近ではそんな行いも当たり前のように受け入れられている。むしろ、リーゼロッテに微笑みかけてもらおうと、普段は通らないこの道をわざわざ選ぶ者も少なくなかった。
「リーゼロッテ様。旦那様がもうすぐお帰りになるそうです。そろそろお戻りになっていただけますか?」
落ち着いたデザインのドレスを着た女性がリーゼロッテを迎えに来た。
「エマニュエル様」
「エマで結構ですわ。リーゼロッテ様」
艶っぽく微笑む彼女は、リーゼロッテの世話係として新しくついた侍女である。ウェーブのかかったこげ茶の髪に青い瞳をした美人で、目の下の泣きぼくろが妖艶さを醸し出している。
リーゼロッテはそのたびに淑女の微笑みを返しては、公爵家の使用人をメロメロにしていた。もちろん、本人にその自覚は全くない。
公爵家の使用人たちは、そのほとんどが異形の者を目にすることができた。無知なる者ばかりのダーミッシュ家とは正反対である。異形の者を祓うほどの力はなくとも、日常で異形の存在に慣れ親しんだ者たちばかりであった。
彼らにとって、この泣いてばかりいる異形はもはや風景と化していた。たまに使用人の子供がちょっかいをかけるくらいで、その存在を気にかけるものなど皆無であった。
まして話しかけようなどと思う人間がいるはずもなく、そのためリーゼロッテの行動は、はじめのうちはみなに奇妙に映ったようだ。
しかし最近ではそんな行いも当たり前のように受け入れられている。むしろ、リーゼロッテに微笑みかけてもらおうと、普段は通らないこの道をわざわざ選ぶ者も少なくなかった。
「リーゼロッテ様。旦那様がもうすぐお帰りになるそうです。そろそろお戻りになっていただけますか?」
落ち着いたデザインのドレスを着た女性がリーゼロッテを迎えに来た。
「エマニュエル様」
「エマで結構ですわ。リーゼロッテ様」
艶っぽく微笑む彼女は、リーゼロッテの世話係として新しくついた侍女である。ウェーブのかかったこげ茶の髪に青い瞳をした美人で、目の下の泣きぼくろが妖艶さを醸し出している。