ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 彼女は子爵夫人で、二十代に見えるが実は五人の子持ちらしい。ぼんきゅっぼんな体形で、とても五人も子供を産んだとは思えない見事なプロポーションの持ち主だった。

(わがままボディがまぶしすぎる……。むしろエマニュエル夫人とお呼びしたいわ)

 年齢不肖な美女に微笑みを返しつつ、リーゼロッテは静かに立ちあがった。

「お迎えが来たので今日はもう戻りますわね、ジョン」

 リーゼロッテが膝を抱えてめそめそ泣いているジョンに向かって言うと、ずっと下を向いていたジョンがふいに頭を起こした。

『またボクの話を聞いてくださいますか?』
「ええ、もちろん」

 すがるような声音にリーゼロッテが微笑みを返すと、ジョンはわずかに頬をほころばせた。そしてすぐに下を向くと、再びぐじぐじと泣き出してしまった。

「お待たせしました、エマ様」
「今日はいかがでしたか?」
「ええ、今日も泣いてばかりで新しいことは何も……」

 帰りの道すがら、エマニュエルがジョンの様子を尋ねるのはいつものことだった。

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