ふたつ名の令嬢と龍の託宣
 はじめはリーゼロッテにほとんど反応しなかったジョンが、日を追うごとに変わっていった。その様をエマニュエルは驚きと共に観察していた。

 ジョンはずっとそこにいた。エマニュエルの祖父が彼の祖父から聞いたとき、ジョンはすでに今と同じ泣き虫ジョンだったらしい。それくらい長い間ジョンは泣きながらずっとそこにいた。ジョンは泣き虫ジョンであって、それ以外の何者でもなかった。

 そのジョンのプライベートな情報が、回を重ねるごとにリーゼロッテによって明らかにされていく。ただ泣いてばかりとリーゼロッテは言うが、今日のジョンは一瞬ではあるが笑顔までのぞかせていた。

(不思議な方ね。このリーゼロッテ様は)

 異形など、そこらへんに履いて捨てるほどいる。いちいちかかずり合っていてはキリがないのだ。下手に相手をすると付き纏われたり面倒なことにもなりかねない。悪さをしなければわざわざ祓うこともない。道端の石ころと同じである。それが常識だ。

 リーゼロッテの行いは、ともすればただの愚行と言えた。しかし、リーゼロッテは子供じみた好奇心や安い正義感でジョンに会っているようには感じられない。

 その力があれば、簡単に浄化することもできるだろうに、彼女はただ寄り添い、静かに相槌を打つだけだった。

 廊下の端々にいる小鬼たちが、歩くリーゼロッテを伺うように覗いている。

 いつの間にか集まってくる弱い異形の者は、リーゼロッテの力に惹かれているようだ。近づきたいが近づけない。そんな様子の小鬼たちを、エマニュエルはさりげなく追い払った。

(ほんと、不思議な方だこと)

 リーゼロッテに付き従いながら、エマニュエルはじっとその細い背を見つめていた。

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